秘恋物語 (前篇)

mangetu02

満月を見てると悲しくなって、あっくんに今日はセックスしたいとゆったら、

「ちい、僕はお兄さんじゃないよ。」

だって。カレシは背中を丸めて毛布を被る。

そんなつもりはないけど。

あたしの中の深海底では、そんなつもりかもしれないけど…。


「でもさ…」

それ以上言葉を繋ぐことも面どくなくって、あたしは左手の親指を強く噛んだ。

「明日な…。」

あっくんは、酷い。冷たい。いや、やっぱりそんなことはない。優しい。

あたしの三日月からまたショッパイのが零れてきて、あっくんの肩越しでこっそり拭いた。




前の満月の晩、お兄ちゃんが首をつって死んだ。

酒が残る独り寝の朝、あたしの携帯が何度も震える。

眠り目を擦ると、「おかあさん」のサイン。

二度は無視した。今じゃそのことさえ後悔しているの。

三度目に携帯がぶるった時、「もう朝っぱらから何だよっ」

て母を憎んだあたしはまったく馬鹿だ。

「ちいちゃん、ちいちゃん、けい君が死んじゃった。」

あとのことは聞こえなかった。っていうか覚えていないというか。

〈夢だと思った〉とか、そんな使い古された慣用句じゃピンとこない感覚で。





盛岡から上京してからすぐの頃は、

あたしはお兄ちゃんと毎日のように電話かメールを交わしていた。

サークルの先輩にふられて一晩中泣いた夜、お兄ちゃんが朝まで電話に付き合ってくれた。

「可愛い妹を泣かす奴は許さん。」

2、3日して、そんなメッセージを添えた一ダースの白桃が届いていた。

短大の寮母さんにお裾分けに上がったら、

「いいお兄さんね。」

と、持ち上げられる。

「お兄ちゃんは、農協で働いているので。」

まとの外れた受け答え… けど思わず出たのがそんな感じのコトだったと記憶している。

「お兄ちゃんは、あたしのことが大好きなんです。」

なんて、ゆえるわけない。






キャバクラに入店したての頃は、喧嘩ばかりだった。

カレシのように怒るし、電話越しに泣かれたこともある。

都会でいろんな男と寝て、お金やブランド物をもらったりしていくうち、

あたしは、だんだん田舎者のお兄ちゃんのことがウザくなってきていた。

「兄妹いるの?」とか客に尋ねられると、平然と「いない」と答えたこともある。

友達との会話でお兄ちゃんの話題になると、「彼」とか「あの男」とか三人称の呼び方も、

いつのまに「お兄ちゃん」からずいぶん変わってしまった。
 
やがて、「彼」の電話には無視を決めるようになり、メールの返事は出さなくなっていた。

つづき

by ケイ_大人

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    けいさーん!小説読みましたっ(*´˘`*)♡なんか一行目から、刺激が強いですねっ//笑!でもけいさんわこーゆーお話書くの得意そう!さぞかしペンがすらすら進んだことと思います(๑´`๑)笑!男の人わ苦手な人もいるかもだけど、やっぱり女の子わ恋愛の話とか好きだし、続きがとても気になります☆♬*これからもけいさんらしい作品をたくさん作って下さい♡応援してます( •ω•ฅ).。.:*♡ヤーマン

  2. 大人 より:

    ヤーマンさん、お返事が遅くなってすみません。
    お兄ちゃんは、本当に欲しかったものを手にすることが
    出来ませんでした。
    ちいちゃんは、どうだと思いますか?
    後編もお楽しみになさってくれたら、嬉しく思います…

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自分のために~誰かのために、言葉とセンテンスの職人でありたいと 日々精進しているところです。

言葉から命を吹き込まれた語り人たる登場人物たちが、いつのまにかぼくから離れて個を象るとき、読者の皆様の傍にそっと寄り添わせてやってくださいませ。

あなたが死にたいくらいの時、彼らが少しの役にでもなるなら…

ぼくの幸せです。