ひなたの1週間 (前篇)

 

前篇

月曜日。
三組の梅田が ラインしよってゆうんで番号教えたら、
一時間もしないうち、
速攻告ってきた。
「ひなたって、俺のこと高一の時から好きだろ。
 俺も気になるからつきあわねえ?」

先週のこと。家庭科で作ったコロッケが不味くって、
たまたま上大岡のウィングで鉢合わせた奴にあげた。
それが梅田の勘違いか……。
あのさー、マジないし。

それと勘違いはまああれとして、
「気になるからつきあわねえ?」って なんだソレ?

むりだわ!
なんだけど、面白そうだから、
「うちも気になってたんだあ……」
とか返してみる。

すると鼻息荒らくして、
「おれ、お前のことが好きだ! 一生おれが守るから!」
自分に酔ってんな、コイツ。
 勝負あり。もううちの勝ち? 
手応えのない♂。

「うち、やっぱやめとくー、ごめんねー」
って送ったら、

「はぁ? マジ?! どういうことか理解できない……」
だって。 頭悪いわー。   

 


火曜日の放課後。放送室。
台本を取りにいく。放送部は金曜の昼休みに校内番組をやっていて、
六人の部員が交代でDJを担当している。
で、今度はうちの番だから。
「ひなた先輩、お疲れ様です!」
一年の広瀬くんが、ノートパソコンの前で腕まくりをしている。
「今週ですよね、先輩の担当」
と、黒ぶち眼鏡でガン見。
「そうだけど……。なによ?」
「ぼく、ひなたさんの声スキです」
「あ…、どーも」
素直に受け取っとくわ。
こいつ、ちっちゃいころ読まされた 『小公子』とかに出てきそうな。
「ひなたさん、今週ミスチルの『旅立ちの唄』をかけますよね?」
うち、桜井さん好きだし。
「ぼくは来週、『しるし』をかけようと思ってて」
ふーん。
「いいですよねえ、あれも」
 まあね。桜井さんはぜんぶイイけど。
「あの ひなたさん……。 良かったらぼくの原稿に目を通してくれませんか? 」

放送台本は事前に顧問のチェックが入るんだけど、
その前にうちに見てほしいってこと。
自分の番組でいっぱいいっぱいよ。
関心ないわ。
雑多に積まれたペーパを掻き分けて、
とにかく今週の原稿を引っつかみ、
じゃあ、あとよろしくーって出ていこうとしたら、
健気な小公子は泣き出しそうな顔するもんで、
「もー、しょーがないなー」
可愛い後輩だし。

― ではここで今週のフイーチャリングソング。ミスター・チルドレンの『しるし』です。「ダーリン ダーリン いろんな角度から君を見てきた そのどれもが素晴らしくて  僕は愛を思い知るんだ」って、素敵ですよね。あなたは、誰の横顔に焦がれていますか? ちなみに、ぼく、DJ広瀬は、二年四組で放送部の先輩、DJひなたさんのことを…―

はあー?! 

「あんたこれ読むつもり?!」
 真っ赤な顔して、しょぼくれた振りを見せるけど、意外と大胆な小公子。
「だめですか?……」
と、おもむろに黒眼鏡を外す。

へえ、そういう顔してんだ。
うち、正直ちょっぴりドキッとした。
「ぼくマジです。今ここで全校にカミングアウトできます」
と、放送開始のスイッチをONに切り替えた。
「わかった。ストップ! そこまで! 」

「ぼくはひなたさんのことがっ」

えっ?

なんで?

うち……。

小公子の口を掌で塞ぐつもりが、チューしちゃった……。

 


水曜日。バイト先のファミレス。ロッカールーム。
 五時までにタイムカードを押せばよかったんだけど、
暇すぎて早く着いたわけ。
そしたら目撃! 
ひょろりと色白で背の低い副店長が、うちの制服でシコッてんの。
「たのむ!、黙っててくれ」
 魔が差した。女房に逃げられて淋しかったんだ。
とか女々し涙で土下座。
 仁王立ちのうちは、それ以上ないほど蔑んだ視線を垂らしてやった。
ゲスなおやじ!

「これ、なっ、これで頼む!」
と、諭吉さんを一枚差しだしてくる。お目こぼしをと。
最低なやつだ。
「じゃあ、こっ、これで!」
と、三枚差し出す。
「なんならこの制服買いとるから」
「ふざけんなっ、エロじじい!」
脇腹にいっぱつ蹴りをお見舞いした。
とにかくキモイから、店は辞めた。

続く

by ケイ_大人

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    ケイさん、小説読みました(^^)1週間ぶりですねっ!私も学生の頃わウチって言ってたなぁー。なんて、そんなところに懐かしく思いました(笑)みんなそれぞれ感じることが違うと思うので、もっとたくさんの人と共有出来たら、さらに楽しくなりそうですよねっ(*˘︶˘*).。.:*♡皆さんにも読んでもらいたいので、鬼リツイート宣言します!!!(笑)来週も楽しみにしてますねっ(((o(*゚▽゚*)o)))ヤーマン♡♡♡

  2. ケイ大人 より:

    ヤーマンさんへ
    いつも温かい応援ありがとうございます。
    この作品も短いのですが、ぼくはとても好きな作品なんです。
    幼さくて甘々しい ひなた が、大人世界に裸足の片足を恐る恐る浸します。厭世観の様相を予感させる乾いた自我が、その細い足を雑に拭いてね、ゴシゴシと… 白い脛に赤い無数の傷がついてしまうのです。そんなイメージで。まあ、よく分からないですよね(笑) これからもよろしくお願いします。(・ω・)ノ

    • ヤーマン! より:

      ケイさんへ☆*
      お返事ありがとうございます(´;Д;`)ひなたちゃんの世界観が伝わってきて、まるで小説の「はじめに」を読んでいるような気分でした。遠に学生わ卒業したのに、まだどこかに厭世観を持っている私わダメですねっ(笑)ケイさんのコメントを読んでから小説を読み返すと、更に深く小説の中に入れた気がしました(*´˘`*)私こそ書いてること分かりにくいですよね~(泣)でも、、少しでもこの気持ちが伝われば嬉しいです!//届け~(ค•ω•).。.:*♡また来週も楽しみにしてます♬*ヤーマン(^^)

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自分のために~誰かのために、言葉とセンテンスの職人でありたいと 日々精進しているところです。

言葉から命を吹き込まれた語り人たる登場人物たちが、いつのまにかぼくから離れて個を象るとき、読者の皆様の傍にそっと寄り添わせてやってくださいませ。

あなたが死にたいくらいの時、彼らが少しの役にでもなるなら…

ぼくの幸せです。