ひなたの1週間 (後篇)

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木曜日の朝。教室

うちの机の上に、逆さにされたゴミ箱がドン。紙くずなんかが散乱。

いわゆるイジメってことですか?

「マージーかー?!!」
と、思わず鞄をぶん投げて、静まりかえった二年四組を見回した。

誰彼の視線も、シラーっと冷たい。

その真ん中でうちを睨みつける女子が一名。

ターゲットロックオン。中村瑞穂という女。

「瑞穂! おまえかよ!?」

「うっせえ!」

と、ずんずん瑞穂が迫って来て、

「ひとの男取ってんじゃねえよ?!」

 はあ? 何のこと?

「ひなた、しらばっくれんじゃないよ!」

瑞穂の取り巻きの誰かが口を挟んでくる。

「おまえ、梅田と付き合ってんのかよ?!」

ええ?!! 

っつうか、こいつらも相当うざいけど、あの男マジ終わってんな。

瑞穂は先週まで梅田と付き合ってたらしくって、突然振られたんだってさ。

うちに当たるなんて、どう考えたってお門違いでしょ?

 



金曜日。欠席。
 朝から調子が悪い。だるいし、身体が重くてベッドから起きられない。

 悔しいけど、あの店のエロじじいのことをどうしても思い出しちゃってムカムカもする。
 今日の放送は小公子に代わってもらうことにした。

 


土曜日の朝。

 家電が鳴る。ママのパート先からだ。

「お母さんこの頃お休みがちなんで、連絡こそいただいてはいるんだけど……」

やっぱり業務に支障が出るからねえ、って厭味ったらしく。

まあ当然か。

「すみません、今、実家の祖祖母が危篤で……、来週には戻ると思うんですけど」

 うちは頭を下げた。この前は「祖祖父」で、その前は「叔母」を死にかけにした。

実際は、また“男”なんですけど……。もうため息しか出ない。

ママって女は、男が出来ると輪をかけて野放図。外泊さえもへっちゃらなんだわ。

「ったく、母子家庭で、娘も仕事も放ったらかしにして、どこで遊んでんだか」
 
その日の夕方。 

今度はメールの着信。小公子から。

「ひなた先輩、お加減どうですか? 昨日の放送はバッチリ代役を務めましたよ。

あのー、結局『しるし』はかけませんでした(笑) ぼくの気持ちも、アノコトも、とーぶん秘密にしときます❤(照)」

だって。うちは、思わずクスッと笑っちゃった。

「後輩くん、きのうはありがとう。もう元気だよ。来週、うちが『しるし』をかけるわ」
 うち、次は休まないよ。ママがあんな人でも、娘は絶対自分のすべきことから逃げたりはしない。

「マジですか? すごい楽しみです。ひなたさんのMCで『しるし』が聞けるのを」

毎日をふりかえると、ゴチャゴチャ色んなことがあんだよね。

けど、うちは一つの場所で途方にくれたりはしない。

そういう自分のことが好きだから。

(完)

by ケイ_大人

 

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    ケイさん、小説読みました(*´˘`*)ひなたちゃんの少し大人になった姿が見れて、嬉しかったです。そんなことを思うなんて、私わおばさんか!と思ってしまいました(笑)ひなたちゃんのお母さんわダメだけど、ダメだけど、寂しい気持ちもちょっと分かります。私わ色んな人に頼ってばかりだから、強くなりたいなぁと思いました。ちょっとずつでも「成長したね!」って周りから思われたら理想です(๑˘ ˘๑)*.。来週も楽しみにしています。ヤーマン♬*

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自分のために~誰かのために、言葉とセンテンスの職人でありたいと 日々精進しているところです。

言葉から命を吹き込まれた語り人たる登場人物たちが、いつのまにかぼくから離れて個を象るとき、読者の皆様の傍にそっと寄り添わせてやってくださいませ。

あなたが死にたいくらいの時、彼らが少しの役にでもなるなら…

ぼくの幸せです。