魚の家

-vol.32- □■ ブリヌーボー ■□

2013年11月21日 来訪

外観

コーヒーが美味しいと感じるのにも時間がかかる

苦さの克服と雰囲気への憧れとの渦潮。

同様 旨い酒という意味がわかるまでに、
だいぶかかった。

ここはニュー新橋ビルの地下1階。

魚の家(うおのや)である。

ゆったりとした造りの店内に
身を任せる。

今日は熱燗からと、
金陵という日本酒を頼んだ。

寒い夜には熱燗がいい。

味覚も育てるものだということかもしれぬが、
それにしても、日本酒の良さがわかるまでに
どれくらいのお金と歳月をかけただろう。

日本酒の良さを共有する友人に感謝したい。

友人なくば、日本酒の味を知らずに一生過ごしたかもしれない。

日本酒_金陵

そういえば李白の詩がある。

金陵酒肆留別

白門柳花滿店香、呉姫壓酒喚客嘗。
金陵子弟來相送、欲行不行各盡觴。
請君問取東流水、別意與之誰短長。


金陵とは、今の南京のことである。
李白が友との別れの宴のときの心境を謳ったものだ。


金陵という地名が実際に
この日本酒と関係があるかないかはどうでもよい。

江戸時代から続く四国の酒造が作ったというが、
由来まではわからない。

それよりも、むしろ雰囲気が重要なのである。

大事なことは、名がいろんなことを思い出させることである。
日本酒が旨いのは、味だけでなく
人生の深みを連想させるからかもしれない。



旨い肴をゆったりと飲むのにふさわしい酒は
料理と相まって相乗効果をもたらす
酒が料理をおいしくさせ、料理が酒を旨くする。

とりわけ、魚介と日本酒の取り合わせは極みだ。


熱燗でお通しをいただく。

お通しは小松菜のお浸し。
お通し



きちんと出汁に浸してある。
シラスといり卵を加えている。

お通しをみるだけで、料理への心意気がみてとれる。
ちょっとしたひと手間は、作り手の悦びなのだ。

小松菜のえぐみをタマゴが掬い取り、
出汁のうま味をシラスが伝える。

なにげないことが、すごく大きな効果をもたらす。
そしてそれを、日本酒が増幅させる。


鮟肝ポン酢

鮟肝ポン酢

吊るし切した鮟鱇から
肝を寄せ集めて巻簾で成形して蒸す。
寒い時期にはピッタリである。

お店ではただ出すだけになってしまいがちだが
たっぷりのポン酢とともに供されると、
なんとも高級感が出る。

定番ではあるが、
なんといっても海のフォアグラなのだから
高級でいいのだ。

魚の臓物は、
さんまのはらわたにしろ、
カラスミにしろ 珍味とも呼ばれる品々が多い。
そして、日本酒とは大親友である。



鮪の刺身
鮪刺身

赤身と中トロの組み合わせ。
大ぶりだ。


寿司ネタのなかでも不動の人気の鮪であるが、
お刺身は白身魚の方が旨みを感じて、個人的に好みである。

魚が美味い店のマグロはとてもいいので
こういう機会に食すようにしている。


魚の白身と赤身のことだが、

近海を泳ぐ魚は白く、
回遊魚のマグロのように長距離泳ぐ魚は
ミオグロビンという酸素を多く蓄える
たんぱく質がふくまれており、
このたんぱく質は鉄分を多く含む赤い色素である。

ゆえの赤身なのである。

ぶりにも鮪ほどではないが
ミオグロビンが含まれている

このミオグロビン、
含まれている鉄分のために
日が経つと、変色してしまう。


肉も魚も旨味を一番感じるのが
すこしだけ日が経ってからだが変色すると
みんな買わなくなってしまう。

5年ほど前の取材で、ブリの養殖では
エサに少しカボスエキスをまぜて与えると
この変色が40時間引き延ばせるという。

絶え間ない苦労で売り場でならぶのだな
と思うとともに、食育の大事さも感じた。



ポテトサラダ
ポテトサラダ



魚ばかりでなく、
さまざまなツマミのバリエーションが
居酒屋のいいところ。

たいていのお店の味のレベルはなぜか揃う。

魚が美味い店のポテトサラダはなぜかうまい。
逆もまた真なりである。

料理のセンスといえばそれまでのことであろうが
それが、お通しからしてすでに伝わってくるものである。

さらには、魚を扱うということが重要ではないか
とも思う。

寿司屋は、寿司だけでなく、
いろいろな料理を勉強するときく。

揚げ物、煮物、焼き物など料理法全般におよぶ。

寿司という料理が総合力が必要で、
かつ、さまざまな領域に広がる料理の技量が身に付く
ということがあるのかもしれない。

魚をおいしく仕上げることができるなら、
どんな料理でもいけて、
それは魚を扱うということ自体に、
繊細さが求められるからかもしれない。

考えてみれば
それは実は、肉でも同じことである。

ともかくも、一事に精通することは
実は他事にも広がり、
とりわけ、
目利きと季節を感じることができる料理は
万事に通じる人間力につながるのだと思う。


チーズの西京漬け

チーズ西京漬け



発酵したもの同士は実は相性がいい。

クリームチーズのコクと
西京味噌の豊潤で濃厚な香り。

こういうものまで、日本酒は受け止める。

而今に代えた。
而今は、三重県の酒造だ。
純米吟醸酒の中では気に入っているお酒である。

いろんなお米から醸造されるが、
今日は山田錦をセレクトした。

而今



この店では五百万石もおいてある。
お酒を造ることができるお米というのを
酒造好適米という。
山田錦はその中でもブランド品だ。
ほかに八反錦、五百万石、雄町、亀の尾など、数えきれない。

而今は、米のキラキラした
フルーティーな馥郁たる香りをまとう。

さて、今日はこの酒をお供に
ブリ鍋といこう。
鍋pre


店長さんが今日は氷見のブリだと説明してくれた。

値段を変え忘れたとのこと、ラッキーすぎる!

 

ブリ刺身

富山湾で採れるブリに特別な名前がつくのは、
富山漁師の伝統がそうさせるのであろう。
富山湾は、能登半島と対馬暖流のおかげで、
回遊魚が入り込みやすい上に、
沖まで出た大陸棚が急に海底まで落ち込む地形のため豊穣な漁場となっている。

晩秋から初冬にかけて鰯下ろしと呼ばれる風が吹くと、ブリ漁も最盛期を迎える。

つまりはその走りのブリをいただけるのだ。

ブリヌーボーだ(この日はボジョレーヌーボー解禁の日であった)

生でも食べられる新鮮なブリを
鍋の中でシャブシャブする。
鍋nao

そして、而今をいく。

最高だ。

鍋にはなんといっても日本酒が一番だ。

酒造の工程は、
精米(米をけずる)して
これに、甑(こしき)に入れて蒸す。
室(むろ)で作った麹と
水を加え酒母を作る。
酒母にさらに水を加えて醪(もろみ)を仕込む。
ここで、雑菌の繁殖を防ぐために乳酸菌を加える。

熟成のあと、火入れを行い
酵母を殺し、搾って透明にする。

殺さずにそのまま熟成させると
濁り酒となる。
極一滴


極一滴雫酒は、
やや荒目の酒袋に醪を詰めて
搾ってつくる。

酵母がまだ生きているため
もろみの旨さがそのまま広がる。

栃木の酒だ。

アテに鯛の刺身に明太子をほぐしたものを和えたものをいただく。

写真 (1)

鍋の合間にアクセントになり
酒が止まらない。

〆は、雑炊を頼んだ。

具はすでに完食。
炊いた米をぬめりをとるため洗って
再び沸騰した鍋に投入。

再沸騰までしばらく待ち、
素早く溶き卵を回し入れ
火を止めて蓋をし、しばし待つ。

食べごろだ。

雑炊タマゴイン


雑炊一人分

好みでぽん酢や塩を加え食す。
野菜の旨味にブリの出汁が効いて美味い。

まさに極上の日本酒と、肴。

本当に、素晴らしい宴となった。

四季折々に、ぜひともおすすめのお店である。

参考:魚の家

photo by #DoY

LINEで送る


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>