とり茂

-vol.36- □■ 老舗の懐 ■□

2014年2月6日 来訪

 

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ホッピーは下町の味という。

石渡秀氏が、ビールが高級品だった時代に
代用の清涼飲料水をつくってくれて以来100年の歴史を持つ。

ホッピーの看板や、それを出す店の雰囲気から
下町の味とされ、京成や中央線を中心とした関東の首都圏で人気が高い。

ビールと同じくらいの値段になった今でも、
ビールと匹敵する人気を持つ。

これは輝かしいことではないだろうか。

意外なことに、
決して流行の華々しさのない庶民の汗とともにある
このホッピーを生産しているのは、
現在は若き女性が社長として経営している。
ホッピービバレッジ。

モツや煮込み、やきとん、焼き鳥と相性がよく
飲みやすいことがそうした人気を裏打ちしている。
そんなホッピーも
一時期には絶滅の危機にさらされた。

創業者の孫である女社長が自ら広告塔となってV字回復を果たして現在にいたる。


そんな辣腕をお持ちの社長だが。順風だけが吹いていたわけではなく、
2007年には商品事故のため全品回収という憂き目にあっている。

さらには、新商品のホッピーを出した時も
社員と意識共有できずに、突っ走って失敗されている。

そういった諸々の経験があり
ホッピービバレッジは100年を超えて存続し、
居酒屋のカウンターにはホッピーが届けられ
お目見えしているというわけである。

荻窪ラーメンの名店 春木屋も
伝統の幹だけ変えずに、時代に合わせて改良を続けている。

頑なさと柔軟性を併せ持つ
お店や会社のみが老舗として生き残れるということであろう。

易不易の哲学は、永遠だ。

保守派と革新派という政治的な言葉を使えば陳腐になるような
必ず複数の人々の葛藤があって伝統は守られている。

協力してくれる人、納得してくれる人々がいなければ
伝統は途絶える。

結局は、どれだけ人に愛されたかである。


居酒屋という業態も同じだと思う。

そのお店の悪さも良さも飲み込んで通ってくれたお客さんがいなければ
長続きはしない。

店は店主とお客様の二人三脚だ。

結局はお店の人間力であると思う。

その人間力が感じられるから楽しいのである。

今日は、ニュー新橋ビル地下一階の老舗
とり茂にお邪魔した。

店長の中村茂八氏は、ニュー新橋ビル地下一階の町内会長を勤める。
居酒屋の世界一の激戦区新橋で老舗といわれるようになるまで
さまざまなご苦労があったと思うが、
こちらが恐縮してしまったくらい、とても物腰の柔らかい方だ。


なにはともあれ、
ビールをいただく。

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最初から、居心地がよい。
カウンターに座ったのに、、、、

居酒屋のカウンターは敷居が高いところもある。

テーブルに座り、
カウンターで親しそうに店主や
料理を作ってくれる人とやりとりを
眺めて、
数回以上通ったところで馴染みとして
認められ、あるいは自分を認めて
カウンターに座るのが私の通常である。

いきなりのカウンターで
しかも、ゆったりとした心持でいられるのは
他の店ではあまり経験したことがない。

あくまでも、カウンターでアウェイを感じるのは
お客側の勝手な思い込みなのだが、
それでも
はじめて入るお店は緊張するのがほとんどであるのに
それを感じさせなかったのは
この店のすごさだと思う。

さすがは、新橋の老舗である。

カウンターに座る我々の背中に
店員さんと常連の方の気軽な世間話がきこえる。

とても、楽しそうだ。

ふと、最近読んだクルーグマン氏の本を思い出した。

クルーグマン氏はノーベル賞受賞の経済学者であるが
アベノミクスの奨励者である彼は
アリに対しキリギリスになれ
という主張として捉えられ、批判もある。

私が読んだ本でも
中国の台頭は世界の驚異ではないと
アメリカの人民元切り上げ圧力を批判している。

中国の対米黒字がなくても
失業率は増加し、貧富の差は増大する。
そのアメリカの国内問題を
中国の問題とするのは問題のすり替えであると
辛辣な言説である。

アメリカと中国の経済摩擦があろうがなかろうが
経営者が今やるべきことに何の違いも生じないのかもしれない。

歯に衣着せずものいう人は批判や誹りを免れないが
この説に関する限り、そんなものかなと納得してしまった。

経済学者と実際の経営者との違いについても
この本は触れている。

たとえば、経営の実績のある人が政治をやっても
それほど功績があがらない人がいる。
経営は自分の会社の成長だけを考えればよいが
国としては、公共の福祉のバランスが壊れる影響も
斟酌に入れねばならぬ。


国が悪いなどという人はそもそも
経営がうまくいっていないか 
社会貢献を真剣に考えていないのかもしれない。

お歴々はもっともなことをいうけれども
自分としては、
目の前のお客様を楽しませること
と経済のお説とはまるで別世界のことである。

世界経済を憂いて、バタフライエフェクトに過剰に反応し
あれこれ考えるうちに、目の前の貴重なお客様は退屈してしまうかもしれないのだ。

いうまでもなく、
お店を守ることと
世界経済は実は関係がある。

しかし、経営者がお客に対する姿勢にとって
世界経済はいったん括弧でくくってしまっても何の問題も生じないのだ。

お通しが出てきた。
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丹精込めて作った煮物と
鶏肉の上に玉ねぎの炒めたものを乗せたもの

いきなりの”おふくろの味”に
ばかげた理論はふっとび、一気にほっこりとしてしまった。


人気のガツ刺し

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合わせるは、庶民の醍醐味 ホッピーだ。

力強いガツ刺しは明日への活力がみるみる沸いてくる。

串盛りを頼んだ。

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なんとも落ち着く味だ。

なんの気の衒いもないが、
それでもやはり、ここでしか味わえない味なのだ。


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ホッピー気運にのせて
朝鮮焼きを頼んだ。



パンチのきいたニンニクに
憂いも吹き飛ぶ。

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まさにサラリーマンのオアシスだ。

さまざまな幻想にとらわれるのは人間として宿命である。
しかし、やるべきことは変わらないのである。
だったら、いい幻想を抱こうと思う。

とり茂の料理を食べて
そう思った。

とにかく楽しい老舗の居酒屋である。

新橋の懐の深さをしみじみと感じた。

 

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参考:とり茂

 

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