餃子や

-vol.33- □■ 嗤う将門 ■□

2013年12月18日 来訪

 

DSC_0053

新橋の烏森神社は、藤原秀郷が、平将門を撃つ前に神に祈願し、

そのお礼に稲荷神社を建てたという由来だが、

私なぞは、違和感に苛まれる。

サラリーマンの街の鎮守としては、
藤原秀郷より、断然 将門の方がふさわしいと感じてしまうのである。

将門は、菅原道真に親王たれと夢で告げられたという。
東国の庶民からみれば、スーパースター的な存在であった。

将門の首は討ち取られた後もなお、まだ生きていて、
ある人が、「将門は、こめかみよりぞ斬られける 俵藤太のはかりごとにて」
と詠むのをきいて、カラカラと笑い、やっと目を閉じたという。

そんな豪快な人物で、庶民のヒーローの方が
サラリーマンになじむのではないだろうか。

たしかに、藤原秀郷もいくつかの伝説を残す。

たとえば、
「浦島は、無事かと藤太尋ねられ」
という川柳がある。

百足を退治した藤太が、竜宮城に招待された伝説を受けたもので、
江戸人は、久し振りに人間を歓迎した竜宮での会話を想像したのだろう。

付け言葉という技法がある。
歌舞伎の言い回しなどに多用されるのだが、
本来の意味に対し言葉の過剰がある。
「恐れ入る」とただいわずに、「恐れ入谷の鬼子母神」などといったりする。
江戸のマニエリスムだ。

ありがとうの付け言葉に
「蟻が鯛なら、芋虫や、百足汽車なら、蝿が鳥」
というのがある。
百足を汽車に連想させる地口が軽妙だが、
百足を倒してしまう俵藤太の伝説は
汽笛一斉を唄う新橋には、そぐわない気がしてしまう。

政府やお偉方と、庶民の意気投合は、
資本主義だろうと社会主義だろうと
構造的な理由で、永久に果たされぬ。

俵藤太の竜宮伝説は、私利私欲を貪る当時の地方役人の放蕩の
イメージとも重なり、どことなくサラリーマンに敵対するような構図が浮かぶ。

兜町の機嫌を損ねないようなバランスをなんとか保ちながら、
将門のような豪傑キャラの登場を、
どこかで期待するのがサラリーマンである。

植木等の演じたニホン無責任時代では、
まさにそういった豪傑なサラリーマンが活躍する。

責任をとるといいながら、
実際には責任をとらずに私利私欲を貪る支配階級。
それへの主人公の反逆が痛快で、
サラリーマン層の支持を得たのである。

ともかくも庶民層が生きるための闘争は
昔から続いてきていた。

庶民最大の危機の物資の不足に対し
官憲に抗いできた街が闇市である。

渋谷も新宿も闇市が盛んだったが
新橋も最大級の闇市があった。

新宿ならゴールデン街や思い出横丁に忍ばれ
渋谷はいまはマークシティに上塗りされてしまったが
地下街にはその雰囲気も残る。

新橋はというと、
闇市をそっくりビルの中に閉じ込めた。
それが、ニュー新橋ビルである。

ほとんどが個人商店で
靴屋、洋服屋、マッサージ屋、
居酒屋が犇めくその雰囲気は独特だ。

今日紹介するお店は
そんなニュー新橋ビルの地下一階にある。

闇市の頃の雰囲気を色濃く残すお店である。

その名も「餃子や」である。

まずはビールからというのは、
誰が始めた儀式かわからぬが、
とりあえずもそういうことから始めたのは
やはり、この店の雰囲気に圧倒されたところもあるのだろう。

 

DSC_0040
様子を伺う時間稼ぎをしたかったのだ。

はじめてのお店に入るときには
ビールでのどを潤しながら メニューを眺め、
片目で雰囲気を伺ったりする。

そうしているうちに
暗闇の中で目が慣れるように
だんだんと店の内部が把握できる。

照らし出された店は
浅草を思わせるような下町情緒のある
餃子をメインに据えた居酒屋さんであった。

そう思うと一気に気楽になった。

みれば 餃子以外の料理もたくさんある。
普通の居酒屋さんだ。

店の名前が餃子屋なので

ファミレスでポテトやソーセージをツマミに飲んだり、
ラーメン店の日高屋や直久のようなお店を
居酒屋使いして帰るような具合を想像したのであるが
結構豊富なメニューに目移りする感じである

お通しの茄子味噌のところで
美味しい庶民派の居酒屋さんだとすっかりわかった。
DSC_0042

そして、その餃子の種類が豊富で
こちらも選びきれない。

メンマ、煮玉子、チャーシューの3点盛
をもらった

DSC_0044



ラーメンのトッピングのようなおつまみだが
これに連なる餃子への前哨として、ふさわしく思えたのだ。

チャーシューはやわらかくジューシーで
冷めていないのもうれしい。

煮玉子も玉子のまったりとしたコクを引き立てる味が
しっかりと入っていて、つまみとしても上々だ。

メンマも どこかなつかしい。

以前にメンマを肴にビールを飲んだのはいつだったろうか。

さて、人心地ついたので
餃子を頼もう。

種類がありすぎて自分で選択するのをあきらめ、
店の人におすすめをきいた。

しそ と 高菜 だそうだ。

高菜はともかく紫蘇は中国ではあまり使わない食材だ。
たいていは香菜を使う。

日本人好みにあわせているというところだろうが
こうした対応が可能な中国の料理の懐の深さを感じる。

中華は調理法が重点で
和食は素材に重きを置いているのかもしれぬ。

餃子という調理法は食材を少し変えても成立する
素材を引き出す調理法の和食では別な料理になるだろう。

そんなことを考えてながら
ハタハタの唐揚げを頼んだ。

hatahata



御存知 ハタハタは、ヌルヌルとした食感が特色で
ブリコ(卵巣)にうまみがある。

鱗も少なく骨もやわらかいので
唐揚げも美味しいわけだ。

ここでも調理法がきいている。

さて、餃子がきた。

餃子



びっくりなのはこの羽根。

なんて美しい羽根なんだろう。

丁寧に焼き上げられた感じがよくわかる。
香ばしさが増し、タレもよく絡むようになる。


しその方はとてもさっぱりと
高菜はその風味が加わってなんとも いい味だ。

おまけに箸でつまむと
中から肉汁が飛び出した。

とてもジューシーで、なおかつ さっぱりの餃子。

これはいい!

DSC_0045



味噌きゃぺつをアテに
ビールをお代わり!
これぞ、ニュー新橋ビルの真骨頂である。

とても家庭的で、親しみやすいお店だ。

ニューしん には、こうした親しみやすいお店も数多い。

たとえば、向かいの「赤舟」でちょっとつまんで
この「餃子や」で 餃子を食べて、
最後は、「橙(だいだい)」で おにぎりをもらうなんてこともできるのである。

そうした梯子酒もワンフロアでできてしまうのは楽しい。

この迷宮の中は、奥が深いし
とても落ち着く。毎日だって飽きさせはしないだろう。

俵籐太も烏の森を抜けだして
ひそかに飲みに来ているのではなかろうか。

ニホン無責任時代は、
コンプライアンスの強化とともに終わった。

それとともに、豪快な無頼漢もいなくなってしまった。

いつか、このニューしんの地下街から
平将門の豪快に笑う姿が見られることを願いたい。

参考:餃子や

LINEで送る


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>