せかいち

-vol.1- ■□サラリーマンの立ち位置□■

ーー2012年7月来訪ーー

「あとは、上がどう考えるかだよ」
上司らしき男が、半ば身を反らして、話相手を睨むような仕草になった。

ここは、”せかいち” 。
レンガ通りにある居酒屋である。
しなやかな振る舞いの中に華やいだ女店員が笑顔に迎えられ、店内に入った。

とりあえず、生ビールを頼んでメニューを眺めるなり、
斜め向かいに陣取ったサラリーマンらしき 声がきこえてきたのだ。

メニューにはもつ鍋が堂々と書かれている。
先ほどの声とは別のサラリーマンの同僚らしき二人でいる隣のテーブルには、 カセットコンロがでていた。
そのテーブルはお勘定どきらしく、鍋のサービスとおぼしきスープをすすっている。
「会社は助けてくれない。。。」
宴のあとのような、サビしげな表情で、つぶやくような語り口だ。

また、斜め向かいから、声が聞こえる。

「たしかに、ウチあたりのちっぽけな会社がとれる案件じゃないだろ?」

向かいに座る部下の表情はここからは伺うことができない。

いつのまにか、お通しがでてきた。
もやしのナムルだ。
あっさりとしているが、後を引く味わいだ。




「あーあ、明日は会社に行きたくないな」
隣の二人が立ち上がった。
すすっと、会計場所に女店員が移動した。

会計が済むのを見計らって、とりあえず、センマイ刺しをたのむ。
本当は、レバ刺しといきたいところだが、許されぬ。
食べられないというと途端に食べたくなったりする。

「でもな、うちのサイズには合わないっていう部長の盲目的な判断が気にくわないんだよな。
そんなんじゃ大きくならんよ!会社っていうのは」
ますます反り返ったような姿勢の中年男の声は大きくなった。
隣の二人が帰ったので尚更だ。

モツがオススメなのは、新橋ではこの店に限ってのことではない。
いったい一日にどの位の臓物がこの街で消費されているんだろう、、、
そんな疑問がふと頭に浮かんで、
オススメという印がついた酢モツを追加した。

「そもそも、部長が大きなやつをとってこいっていうからとってきたら、
今度は大丈夫かって質問攻めだよ」
男がビールをおかわりした。
笑顔で女店員が承ったので、
「こっちも追加を」とホッピーをたのんだ。
ヒラヒラと軽やかに動く。

主体性が大事だという。でもそれを強調しすぎると、皆が社長だ。
それはそれでよいかもしれないが、ちょっと首を傾げてしまう。

毎日毎日、きったはったの勝負に身を投じて生きるのが好きだという性分の人は、
経営者になれば良いと思う。
でもそういった人は、一握りだろうと思ってしまう。
リスクを伴わない利益は詐欺だ。

サラリーマンは組織で勝負する。
組織でうごくためには、それ相応のプロトコルに従うのが肝心だ。
そうした中で、なぁなぁにできないことも多い。
先ほどのモツの量も、ばく然とした疑問を楽しんでいるにすぎないのだが、
会社だったら、フェルミ推定ぐらいしろと、おこられてしまうことだろう。

酢モツがでてきた。



スッと胃に活力が与えられるような感じだ。食べやすさの中にも旨味が感じられる。
これも後を引く味わいだ。

「そういえば、あの経理のコ、結婚するんだって?おまえ狙ってたじゃないか」
ある程度、くだを巻き終えたらしく、異性の話題に移った。
ここからは、ドンドンと下世話になるのが通例だ。


給料をもらっている立場なら、責任は上がとる。
自分の持ち場以外の主体性は不要だが、
その代わり強い主体性があるように、見せかけねばならない。
しかし、そのダブルスタンダードは矛盾だらけで、
どこかで 見せかけのハズだった主体性が自負に変わるときもある。
そんなサラリーマンの機微も、人間らしいでのではないか、、、
つい、そう思ってしまう。

珍しいメニューが目に入った。
牛スジ入りの卵焼きをたのんで 〆た。


飲んだ胃に、ふとやさしい 満腹感を与えてくれるそんな一品だ。


「せかいち」は24時間営業の店である。

新橋で終電を逃したらどうするのか。
酒量に余裕があるなら、「せかいち」がベストである。

もしその日が金曜日で喫煙者なら、
烏森口の西口商店街の入り口まで戻りカフェトバコに
入るとよいだろう。

おなかがすいているなら、中華料理屋も遅くまでやっている。
蘭苑はおすすめのお店である。

新橋は、朝まで楽しい街であるのだが、
翌朝の重荷がうらはらにあるのも否めない。
でもそういうのもひっくるめて夜の魅力である。
どこか後ろめたい気持ちも情緒のひとつだと思う。

参考 食べログ せかいち本店

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これまでのコメント

  1. SmileNegami より:

    せかいち 烏森口店はなくなったようです。
    本店はまだあります

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