浜んこら

-vol.2- ■□継投と鶴□■

ーー2012年10月20日来訪ーー

 

新橋に求めるもののひとつには
昭和の香りがあるのではないだろうか。

季節は、野球がそろそろシーズンオフを迎える頃だ。
日本シリーズまでの段取りがずいぶんと複雑になった。
巨人一色でない多様化も世相の現れか。

中学生の時分は、
前の日のナイターをみていないと
話題についていけなかった。
一億総解説者 なんて呼び名ができた時代だ。

夢中で見るので、
1試合1試合にそれなりのドラマがあった。
だから、話題になる。
友人が見るから自分も観る。

あの一球すごかったな
とか
あの継投はひどい
とか
あのスクイズ失敗で勝負がみえた
などなど 。。。

家に帰るなり、学生服を放り出し
ナイターに魅入った。

夕暮れどき
路地裏には、夕餉のしたくの匂いが立ちのぼっていた。

昭和の路地裏の秋の夕暮れ。

そして今夜、新橋の路地裏にたち、
赤ちょうちんを探す。

有名なセンベロの店、大露路のほど近くの2階に 「浜んこら」はある。


入口をガラガラとあけると、
女将さんが出迎えてくれた。
まだ宵闇の薄い紫から、
つるべ落としの直後。
雨の降っているせいもあるのか、
他に客もない。
せっかくなので、”こあがり”に腰を落ち着けることにした。

小上がりとは、襖などで仕切られてはいないが、靴を抜いで座る席である。
人にもよるが、居酒屋では特等席である。

なんだか、おばあちゃんのウチにいったような気分だ。

これも、昭和の風情であろう。

連れも昭和を思い出したらしく、
千代の富士の話題もあがった。

「最初は何にしましょうか
おビールでも、召し上がりますか。」

女将さんが勧めてくれるままに
生を注文した。

ツブ貝の煮物がお通しだ。
飾らない美味しさとでもいおうか。
どうだ旨いだろう、というトゲがない。
なんとも懐かしいような優しい味わいだ。
冷めているのに温かさすら感じる。

 

居酒屋らしいメニュー、
マグロぶつと
旬の銀杏を頼んだ。

マグロぶつ

ツマは、その場で大根を切っていた。
ちょっとしたことかもしれぬが、
この辺りがチェーンではむつかしい。

包丁の音がしましたからというと、
嬉しそうな笑顔で、時間が経つと味が落ちますからという。

少し大きめなぶつ切りは、
マグロの赤身を存分に味わえる。

 

銀杏を煎る音が、なんとも秋の風情
旬のものらしい、鮮烈な香りと上品な味わいが 心地よい。

 

サバの塩焼き
鯖は干してあるのを焼いたもの。
なんとも家庭的だが、
鯖の脂のほかに熟成されたよい香りがする。

 

家庭的ついでに、

アジフライ。
揚げたてのホクホクを頬張る。

 

懐かしさに胃が学生時代に戻ったのか
名物の長崎ちゃんぽんを追加。

実は最初の予定では、浜んこらの2号店にいこうとしていた。

ところが、センチメンタルが足をこちらに向けたのだ。

女将さんの話では、
2号店を開いたのは、この場所をやっていた先代。

2号店は、大きく小綺麗になったというが、あえて、
こちらに来る常連さんもいるという。

居酒屋は箱も大事な要素ということか。

窓を開けると、
心地よい風 なのだが、
隣のビルの壁が見えるのみ。

景観よくないという人もいるかもしれないが、
これはこれで、落ち着く風情だ。

この来訪の日のちょうど一ヶ月前

9月19日に
日航は再上場を果たした。
株価は3810円。
アジアの国際関係の状況の煽りで少し下げ、
今日は3805円の終値。
2兆円もの負債を抱えた企業の復活劇だが、個人的には、鶴のマークの復活がなんとも嬉しかった。

オヤジのノスタルジーにすぎないかもしれぬ。

AIKOの”飛行機”という歌がある。
去っていく彼への未練を、空港で飛び立つ機体を見上げる切なさでつづる
歌詞の情緒は鶴のマークがないと味わえない。

鶴といえば、
福禄寿を思い出す。
寿老人と同神異体といわれるが異説もある。
北宋のころ 
いくら飲んでも酔わない貌体古怪な人物がいて、
これが南極星の化身とされた。
長頭短身、杖に経典、
鶴をしたがえているこの人物こそ 
泰山府君という。
実は閻魔天(えんまさま)の眷属である。
なので、福というか商売っ気はないはずであるが、
当時の画家たちが脚色したのだろうと陳瞬臣は書いている。
関帝といっしょで、商売をくっつけてしまうのは中国らしい。

酒店の壁に仙人がみかんの皮で黄色い鶴を描いたところ、
その鶴が客の歌に合わせて踊りだす。
店は大繁盛。
まさに千客万来、
ある日 
その仙人が店にやってきて、
その鶴にまたがって帰って行ったとのこと。
それが数々の漢詩に残る黄鶴楼の逸話である。

浜んこらの2代めの女将さんは、
まだこの場所を継いで わずか2年だという。

路地裏社会のいろんな事情もあるが、
鶴をしたがえるごとく、
盛り立てていくことだろう。

ともかくも、今夜はこちらの店にして
正解であった。

南極老人星はカノープス。
黄白に光る輝く星で、
シリウスの次に明るい星である。

そういえば今年(2012年)の秋には

ハッブル望遠鏡が10年かけてとらえた画像が発表された。
撮影されたのは、南天「ろ座」の一角。満月よりも小さい領域に、
5500の銀河が写っているという。

もしかしたら 鶴にのって帰って行った仙人も
カメラに収まる日がくるのかもしれない。

参考:浜んこら

 

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