鳥藤

-vol.3- ■□三匹の子豚より□■

ーー2012年7月6日来訪ーー

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銀座の華やぐネオンを背に煉瓦のアーチをくぐると 新橋に出る。

そこで楽しい洗礼の煙を浴びる。
炭火で焼かれた肉から余計な脂がした落ち、じゅわっと 吹き上がる。
肉に香りをまとわせたあと、店内に充満し、路地裏にあふれ出す。

ガタガタするような急ごしらえのテーブルが店からせり出し、
煙に負けじとワイワイと嬌声があがっている。

新橋にはサラリーマンが、
そして、サラリーマンには焼き鳥が
よく似合う。

上着は脱ぎ、ネクタイもはずして、
ワイシャツの上のボタンもはずす。
左手にジョッキ、右手には、串をもって 話に興じる。箸など不要である。

鳥はもともと高級食材で、焼き鳥が庶民の口にはいるのは、
昭和30年のブロイラーの登場を待たねばならない。
代用として、牛豚の内臓があった。
代用が主役となるのは、よくあることで、
それもバリエーションに加えながら、焼き鳥屋のメニューが成り立つ。

豚を使う故、焼きとん と謳う店もある。
東松山は、焼きトンで、一代歓楽街を作った。

地鶏が流行るなか、さらに安い食材を求める店と客との二人三脚というわけだ。
純正な焼き鳥やということでは四国の今治市で一番食べられているらしい。

特定の部位だけ串で繋げて焼くのは、
考えてみれば、食べ方として贅沢な話である。
調理法としても、ひっくり返すのも、
少しずつ回したりするのに串はじつに便利で、
満遍なく火を通すことができる。

調理法がすぐれているからこそ
トルコにはシシカバブ、インドネシアにはサテ、中国には羊肉串と
串を使う料理は世界中に存在する。

日本でも、焼き鳥だけでなく、
鰻だって串を打たれ、鮎の塩焼きだって囲炉裏の傍で刺さる。

串で食べるというのも、また一興で、ちょっぴり野性味もあり、
口の端にも力が漲るようだ。話にも華が咲く。

サラリーマンが身を寄せ、席を譲り合いながら興じている、
その背景の煉瓦造り。

煉瓦造りは、似非欧米化を急ぐ明治政府が、
大火の相次ぐ東亰に施した不燃化対策であった。
しかし、無計画で拙速だったため、津田真道から痛烈に批判され、
粗雑な煉瓦を用いたため、永井荷風から風情がないとバカにされた。
そんな政府の拙速とうらはらに、庶民は素晴らしい行動をみせる。

ドイツ人医師のベルツは、焼け跡からたくましく、
素早く復興していく様に驚き、勝海舟の三男の嫁のクララも、
家を失った人々が、それを茶化して楽しげに助け合う姿を日記に記した。

元来、その逞しさは、
家屋さえもリサイクルという身軽な江戸の庶民の気質が成せる技だが、
会社という大文字の他者に対するサラリーマンの共同戦線となって
現代にも通じているのかもしれぬ。

新橋のテーマフード 焼き鳥。

そのメッカで洗練された焼き鳥を提供してくれる店を紹介する。

鳥藤だ。
センベロの聖地 “大露路”に近いこの店では、
タレか塩かなど無粋なる選択をする必要はない。

一番美味しい食べ方はお店が決める
うまい寿司屋と同様である。

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手前はつくね これも塩である。
旨味が凝縮され、口の中が美味しさの洪水となった。
柚子コショウが粋な香りを漂わせる後味。

奥はボンじり。これも塩である。
ボンじりのボンとは”ぼんぼり”が由来らしいが、
この店では、脂部分だけでなく肉部分も一緒になるようにカットしてある。
脂の、ぷにゅぷにゅとした食感と
肉の部分とのコントラストがその旨味を増大させる。

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手間はネギマ、奥は皮だ。
皮はパリッと香ばしい。そしてややからめの塩で ひきたつ。
ネギマは王道を感じさせる堂々たる味。
噛むほどにジューシーで 焼き鳥だ~という感じだが、
この店の格の違いも感じさせられた。
野菜だってまけていない

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むせかえるほどの香りとともに
芳醇な旨味が広がる 椎茸 これも塩だ。
シシトウも美味である。

振り返ってみれば、
タレで出されるのは、鳥レバだけである

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レバーの新鮮さがひしひしと伝わってくる。
タレは、その新鮮さを伝えるためだけに 塗られているかのようだ。

いい忘れたが、お通しは大根おろしにうずらを割りいれたもの。

焼き鳥につけてもよし、そのまま箸休めとしてもよい。
それだけが お客に許された自由である。

うまい焼き鳥をたべたくなったら、ここにくればよいと思うと、
ヤキトリジャングルの中で、目印を見つけたようで、うれしい心地がするのだ。

童話 3匹の子ブタでは、煉瓦造りの家をつくったブタが、
時間はかかるが揺るぎないものを築く。

こうした店は、新橋という土台が、
ゆっくりと年月をかけて築き上げてきたのだろう。
煉瓦を使ったくせに、見せかけだけ急ごしらえな政府とは対照的に、
庶民の心意気が感じられ、なんとも愉快である。

参考:鳥藤

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