しばてん ーーマサーヤンに捧ぐーー

-vol.25- □■さんまのソラリゼーション■□

ーー2012年11月 8 日来訪ーー

 

マサーヤンという一人の旅人をご存知だろうか。

http://masa-yan.net/bio.html

ブログの世界では、有名な人なので、
ひょっとしたら御存知の方も多いかもしれない。

マサーヤンは農ライフを提唱し、千葉県鴨川で農業を営む傍ら、
Webデザイナーとして活躍するミュージシャンである。

何を隠そう、このクオリアリズムのサイトのデザインは
マサーヤンが作ってくれたのである。

 ブログでご存知の方は、リヤカーを引きながら日本一周を果たそう
としている彼のライフワークというべき活動を真っ先に浮かべるだろう。

現在は、リヤカーを引きながら北海道を旅する人物である。

なぜリヤカーを引くのか。

私のような行動力が貧弱なものが抱く
浅薄でちっぽけな疑問がある。

日本一周は果たしたときには、ゆっくりと訊いてみようと思うのであるが、

いまの時点で類推すれば

その答えを探すために、リヤカーを引いて歩いているのだと思う。

そもそも、

なぜは不要なのかもしれない。

そうしたいと思ったから ”ただ” やっていると思う。

そうした潔さが彼には感じられる。

いつでも世間体を気にして、転ばぬ先の杖をつき、
雨水をしのげる場所をとりあえずは確保しているような
私なぞには持ち合わせのない(潔さ)ことである。

私のように、
本だけ読んで、あるいは地図や写真を眺めて、
その場所へほぼ行った気になってしまうようなちっぽけな認識では
測り知れないことなのだ。

架空の恐怖を自分でかぶせて、
行動しないことを選ぶよりも

マサーヤンは ともかくも、自分の力を信じて
自分の足で歩き、触れ、歌い、書くのである。

とにかく感じること。

考えず歩くこと。

架空の恐怖は邪念とともに
取り払われて、手ごたえを感じてくるだろう。
足取りの重さを味わってこそ行くべき道がみえる。

正しいとか正しくないとか、
そんな不器用な認識の仕方でなにがわかるんだろう、

なんていう効用主義など捨てるべきだ。

ただ歩くそして感じる。これ以上の情報が必要だろうか?


平和が正しいかどうかなんて、どうでもよい。
でも、戦争が悪なのはわかっているんだろう?

だったら みんなで歌おうよ。

そんな単純でしっかりとした手ごたえを
誰しも感じることができるだろう。

マサーヤンがいるかぎり。



新橋の しばてん という店を
取材するときにマサーヤンも同席してくださっていた。

そのときの記事をここに掲載しようと思う。



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vol25_gaikan

「夜と霧」のV.Eフランクルは、
「意味への意志」を説いた。
極限まで、追い詰められた人間の意志なのであろう。

意味とは、体系の中のその事物の存在理由である。

フランクルがいうとき、アウシュビッツで
唱え続けた自分の存在し続ける理由を追い求めたものである。

飲み屋はそんなに切迫しないのが
粋である。
居酒屋に入ることこそがセラピーだ。

ロラン・バルトは、
意味作用に二つあるという。
客観的な意味と潜在的な意味である。
前者をデノテーション、後者をコノテーションという。
新橋の意味がデノテーションでは、地名をあらわすのに対し
コノテーションでは、サラリーマンの聖地、おやじの街ということである。

今夜は、しばてん の暖簾をくぐった。


ビールをもらう。
つまみを眺める。
ここまでは、淀みなく流れる。

サンマとカンパチを頼むことにした。

カンパチは、活け締めだ
vol25_kanpachi

活け締めは、旨みを引き出す保存法
食感をやや犠牲にすると聞くがなかなかどうして、うまい。

サンマはそろそろ時期が終わりと覚えて頼んだ。
脂は益々冬にかけてのる。
しかしながら、乗り過ぎるので、
秋が旬とのこと

これもうまい。



シラス大根おろし が、お通しだ。
そのまま食べてもよし、
串焼きに絡めてもよし。

vol25_sirasu

バルトは、文学、歴史から
(当時の)サブカルチャーまで、さまざまな切り口で意味作用を論じた。

人は、意味を受け取るとき、表層だけ受け取るのではなく、
コノテーションも常に受け取っている。

それは、どんな意味があるのか
自分にとってどんな価値があるのか
を、いつも品定めしながら事物を受け取っている。

これが煩わしいときもあるのではないだろうか。

意味を求める病といってもよい。

佐藤春夫の有名な詩に”秋刀魚の歌”がある
報われない人妻(谷崎潤一郎の妻)への愛を現前として、
食べる秋刀魚。

”さんま 苦いかしょっぱいか・・・”
が有名なフレーズだが、その先
” そが上に熱き涙をしたたらせて
 さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。”

デノテーションとしては、
 どこの郷里の習慣だ?ということだが、

コノテーションとしては
 どこにもそんな郷里はない。
  →俺の身にしか起こらんだろう。
ということであろう。

「目黒のさんま」という落語がある。


目黒はとりたてて、秋刀魚がおいしいところではない。
産地ですらない。

「さんまは目黒に限る」といった言説が
現実と違うからこそオチになる。

しかしながら、目黒で”さんま祭り”が平然と開催される。
これはいかなる意味だろうか?

串焼きを頼む
椎茸、うずら、かわ
という定番に
アスパラ巻きの変化球、
地鶏のレバーがクリーンナップだ。
vol25_kusi

ほどよい焼き加減が、
とてもよい。

居酒屋は肉、魚、野菜、珍味が並ぶのが楽しい。


「明るい部屋」は、バルトの書いた写真論である。

写真については、バルトは特に思い入れがあるようだ。
一説には彼の母の死と関係があるらしい。

写真として伝えることは、絵として伝えるのと違う意味がある。
かつて確かにあったものという存在証明、
もう現前しないという重いコノテーション。

この場合の2重化も、かなりやっかいである。
写真を見るたびに、悲しみを受け取ってしまうではないか。

秋刀魚を見るたびに悲しくなるのも
つまらないではないか。

酒は楽しく飲むもの。
その日の気分次第がいい。
事物にまとわりつく様々な汚れを
いったんは取り去ることも重要だ。
そこから新たなコノテーションも生まれてこよう。
この生まれてくる地平こそが、
バルトがいう零度のエクリチュールなのではあるまいか。

してみると、
目黒のさんま祭りは
見事に意味を免れていると思う。

マン・レイの写真の技法のなかに
ソラリゼーションというのがある。
写真を現像するときに、露光を過多にすると白と黒が反転する。
この現象を利用した表現手段である。

目黒の秋刀魚祭りは、見事なソラリゼーションである。

続いて串焼きをいく。
手羽先、つくね、シシトウ、長ネギ
ササミはいろんな種類があるが、
柚子胡椒にした。
vol25_kusi2


酒が進む。
合わせた酒は、
晴耕雨読。
味わいがしっかりしているが、飽きない飲み口である。

農業の話題がでたので この名前の焼酎にした。
どれだけそれが、相応しいかなんて野暮だ。意味は繋がらなくても

どうとでもなる。

たとえば、ドライマティーニというカクテルは様々なレシピがある。
味わいというより、雰囲気や名前が大事なのである。


どうして店が流行るのか。
評論家のお歴々は、さまざまな言説で見事に説明する。

しかしながら、赤提灯やネオンの灯りの方が明快で、
決定的な説明になっているときも多いものである。

不条理を克服せずにそのまま受け入れる
そんな潔さ、滅びの美学が居酒屋にはある。

クレヨンしんちゃんの父、
野原ひろしは、
正義の反対は、悪ではなく、別の正義だといった。


世の中は、白黒つかないことが多い。
それぞれの主張にもそれなりの理があるのである。
お互いが正義をいって譲らず、
お互いの存在理由を否定し合うことからは、
文化はうまれないかもしれぬ。


少なくとも新橋の暖簾の前では、正義などいったん棚におこう。

居酒屋の提灯やネオンは、
意味を消去するソラリゼーションではなかろうか。


それに、どんなに意味を求め抗おうが、
新橋の地霊の予定調和があるのである。
だからこそ、呑兵衛が同じ店に通ってしまう慣性の力学がある。

居酒屋がある限り、極限まで追い詰められることからは少なくとも逃れる自信がある。

新橋はサラリーマンを救うのだ。

 vol25_gaikan2

参考:しばてん

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編集雑記

私は、食べログやら、

ほかの人の評論に合わせてお店を選んだりするのではなく、

実際その場所を訪れ、
実食しながら新橋の居酒屋を知ろうとしているのである。

それには実は勇気がいることなのだが、
マサーヤンを見習うことでなんらかの力をもらい、
それを勇気に転換してなんとか書いているのである。

マサーヤンの旅の安全を願う。

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    ブログ読みました(^^)私もマサーヤンさんのブログ読んでますよー!初めてマサーヤンさんのことを知った時わ衝撃でしたっ。いくら体力に自信があっても、1人で日本一周するとゆう行動を起こせるのが凄いです!私わメンタルが弱くて浮き沈みも激しいんですが、マサーヤンさんのブログを見ると勇気がもらえますよっ☆*もっとたくさんの方にも見てもらいたいです(*´˘`*)あと、ひろしさんの名言も面白かったですねっ(笑)!私もその後調べちゃいましたぁ(笑)!今日わカタカナ多めでしたね(笑)!また読みます(^.^)/ヤーマン!

  2. TOMOYUKI より:

    ヤーマンさん♪
    コメントありがとう!
    そうなんですよ。
    マサーヤン素晴らしいと思います。
    応援したくなっちゃいます!

    そうですね。気が付いてみれば
    カタカナが多かったです。
    しばてん は そんな店じゃないのに・・・
    本当に新橋らしい店です。
    そういえば 新橋らしさとカタカナって
    合わせるの難しいですね!
    いつも気づかせられるコメントありがとうございます。
    とても励みになります。

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