鯛麺真魚


-vol.17- □■融合のこだわり■□

ーー2012年9月25日来訪ーー

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枕草子226段には、紀貫之が登場する。
ある夜、馬が急に立ち止まってしまい 前進も後退もできなくなった。

空からは大雨が降ってくる。

宮主が来てそこは、蟻通明神の宮であるから、
馬から降りなくてはいけなかったと説くと、

紀貫之は、詫びの印にと

「かきくもり あやめも知らぬ大空にありと星をばおもうべしやは」

と詠んだ

馬はたちまちに元気になり、雨は止んだ。

ありと星
と詠んでいるが、実は”蟻通し”である。

唐の皇帝が日本の知恵を試そうとして、
七曲の水晶に糸を通せといった。

蟻と蜂蜜を使って見事にこの難題を中将が解いて知恵の神となったという、
すなわち蟻通明神である。

「蟻通」は、世阿弥が能の謡曲に仕立てている話で、
そこでは、姨捨山の老人の知恵として、紹介される。

紀貫之の立ち往生は、
鈴木春信が 笠森おせんとして復活させる。
「雨夜の宮詣で」という美人画である。

唐というのは、日本にとって脅威の存在であったのか。
明神がこれを退散させる話はまだほかにもある。

たとえば世阿弥の「白楽天」。

唐の皇帝は日本の知恵を試せと、

大詩人 白居易を日本に派遣する。

詩の詠み競べをしようというのだ。

漁夫に対して、
『青苔衣を帯びて巌の肩にかかり 白雲帯に似て山の腰をめぐる』
と詠む。
(大人げなくないか、、、、)

しかし、この漁夫は即座に、
『苔衣着たる巌はさもなくて きぬ着ぬ山の帯をするかな』
と返歌する。

それもそのはず、この漁夫は実は、和歌三神の一人 住吉明神が化けていたのだ。

漁夫がなんて素晴らしい歌詠みをすると驚いていた白居易を
風を吹かせて帰国させる。(気の毒に、、、)

尾形光琳は、この謡曲を見事な屏風にしたてている。

四条流庖丁式という故実があるが、
手を食材に触れずに、真魚箸と庖丁で調理する。

長崎の諏訪神社では
住吉大祭のときに、鯛をこの式で調理し、豊漁祈願として奉納する。

日本は花は桜、
魚は鯛と江戸では云われていた。

鯛は焼いても煮ても刺身でも美味で、実に複雑な味覚を呼び覚ます。

淡白に思える味から想像もできないほど濃厚な出汁がとれる。

新橋は焼き鳥の名店 鳥藤の隣にある

鯛麺真魚の主人は、いいスープができたので、
この店を開いたという。
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品数は多くないが、
様々な料理がメニューに上っている。
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このスープを活かすために辛味と合わせてラーメンを出す。

味が想像できない。

身のほのかな甘みがどうなってしまうのだろうと心配になる。

中華料理の前菜で、鯛などの白身魚と、レタスやキャベツなどの野菜を使い、
ワンタンの皮をあげたものを乗せる。
さっぱりとしたドレッシングをかけていただくサラダのような一品がある。

ヌーベル・シノワーズという名にふさわしい 和と中華の清々しい競演だ。


日本の短歌の伝えたいことは、本当は小説くらいの長さの文章らしい
それを5・7・5・7・7 の31文字に凝縮する

でも今度はその短歌を
聞かされた方の想像力がくすぐられる
自分の実経験を思い起こし、言葉から想念が次々と広がり、
一冊の小説のような思いを構築していく

言外の情報のほうが溢れている。
そんな状態。

何を書くかよりも
何を書かないかということ
そして、芯を残す
残ったものはどうしても伝えたいことそのものであるかも
知れないし、伝えるためには残さなければならなかったものである

洗練というとそれまでであろうが
思考としてその方がよく伝わることもあるのであろうし、
沢山言葉を紡ぐより雄弁ということもあるであろう

だからいい。


素材の味を引き出すというが、
それも同じく 引き算が入っている。

鯛の骨は、必ずボイルして余計な脂を落とす。

これが引き算だ。その上で出し汁をとる。

強烈なもの同士で喧嘩させると味も強くなるが、
濃厚すぎて飽きがきてしまう
強すぎる個性を抑えることで、素材の味が引き立ち、
あと一口食べたいという気を起こさせるのが料理には肝要だ。


天下一品のラーメンのような鶏だしの強烈な直球は胃にこたえる。
(若い時分にはそういうのがいいのだが・・・)

鯛も同じ製法で作ると、かなりの魚臭さになるのではないだろうか。


鯛茶漬けに胡麻ペーストは風味を盛ったりする。

風味を盛るほど、いわば削ぎ落とされているから 美味しい。

性格の違うものを合わせて両方の輪郭を曖昧にし、

そこから各々の個性を引き出すのである。

胡麻があるから鯛を感じる。
鯛があるから胡麻の風味を感じる。

この店のラーメンも辛味を加えているのはそういうことではなかろうか。

そのラーメンというゴールを目指して
まずは、刺身をいただいた。

今日の鯛の刺身は、胡椒鯛だそうだ。

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多国籍なものも一品頼んだ。
イカのハーブ炒めである。
ニンニクとバジルの効いた一品。

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ハイボールで人心地つけてラーメンを待つ。
店内は落ち着いた雰囲気だ。
ずっと座っていたいような感覚をもった。
柔らかい物腰のご主人から、元々は小料理屋だったのを改装したことをきいた。

ラーメンはハーフにもできます

といわれたが、そのまま一人前頼んだ。

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うまい。

実にうまい。

長い間、新橋で美味しいラーメンを探してきたが、まさにメーテルリンク。

鳥藤の隣にあったとは、、、

スープは、唐辛子の風味がきいていて、鯛の風味も実によい感じ。

具の中でチャーシューの代わりに鯛の身が、

支那竹の代わりに、筍が使われていた。

甘みがラーメンを引き立たせる。

麺は浅草開化楼。

細麺だったので、思わず主人にきいてみた。
「細麺もあるんのですね」

するとご主人
「このラーメンに合う麺をさんざん試食させてもらいました」

優しい中にも こだわりの芯が感じられる。

スープをわざと残し主人に渡すと、〆の おじやになった。

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フランス料理では出し汁のことをフォンという。

フォンドボーとは仔牛の胸腺を煮出したものである。

魚出しで有名なのは、フュメ・ド・ポアソン(fumet de poison)という技法。

鯛や平目をまずは野菜などと炒めてから煮出す。

西洋でも出汁に、日本と共通の素材が使われていることを想うと、実に愉しい。

酒井抱一は、尾形光琳を発掘したという。
この人物なくては、光琳は有名にはならなかっただろうとされる。
その光琳は、西洋のジャポニズムのきっかけを作ったのだから歴史は愉しい。

抱一が光琳をフィーチャーして、
光琳は日本の絵画をフィーチャーさせる作品を多く残した。

料理もまた芸術。

風神によって吹き飛ばすのでなく、
盛んに融合し、お互いの個性を引き出す関係でありたい。

参考:鯛麺真魚(タイメンマオ)

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    いつもブログお疲れさまです☆*またまた全く関係ないんですが、枕草子の登場人物の名前、少年隊の方に似てますよねΣ(゚∀゚ノ)ノ笑??これだけまず始めに、どうしても言いたかったんですぅ。すみませんー笑。あと、引き算とゆう表現が素敵だなぁ♪と思いました(*´˘`*)♡蛍光ペンで教科書のどこに線を引くかより、ここわ引かないと判断する方が難しかったりするものです。とても共感できたので、Facebookだったら「いいね!」押してますっ♡笑!それわ料理に対しても言えることだったとわ!さ、さすがですヽ(;▽;)ノいつも話が脱線してすみません。昭和生まれ、ゆとり育ちの悪いところですねっ笑!気をつけます(´д`)ヤーマン!!

    • admin より:

      ヤーマンさん♪
      コメントありがとうございます。
      どんなところに興味をもってくれたのか知るのは
      とても参考になるんです。
      それがどこであっても、読んでくれたことがうれしいです。

      紀貫之。。。そうですね。ヒカルゲンジもそうですが、名うてのプレイボーイです。
      ジャニーズはそんなことも知っていて名前をつけているのかもしれません。

      引き算はいわばたとえですが、
      日本文化はこの引き算が得意なようです。
      書かなければいけないはずなのに、わざと書かない。
      描かなければいけないのにわざと空白にしておく。
      それがかえって想像力をかきたてられることにつながり、
      それを見た人の心のなかで作品が完成して、さらに広がっていく、、、
      素晴しいと思います。
      そんな文化をもっと勉強して、みなさんに伝えられたらと思います。
      日本料理は芸術作品でもあります。
      表現するにはまだまだ勉強が必要です。

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