酒の魚 和海

-vol.18- □■新橋の竜宮城■□

ーー2012年8月13日来訪ーー

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新橋は臓物に冠する店が多いと思う。

しかし、 立地を考えれば海鮮のものだって当然手に入る。

築地から、銀座を経て新橋。 たいした距離ではない。 自転車だって買い付けは可能である。

新橋には、魚金グループをはじめ海鮮を扱う店はたくさんある。

今まで紹介できていなかったのは、 漁港の沼津を故郷に持つゆえの驕りかもしれぬ。

今日はサッパリと刺身で一杯やろう。

刺身というのは料理法として、単純にも思える。

構造主義のレヴィ・ストロースが料理法について、 生のもの、火をかけたもの、熟成させたものに分けた。

火にかけたもののうち、焼くより煮るという調理法の方が失敗がないので、 より高いところにおかれる。

生のものは、低い地位だが、一つの分類法という便法にすぎない。

たとえば、小中学の調理実習が、刺身だったらと考えてみよう。

ひょっとすると、材料はすでに切り身になっていて、

皿に移し替えるという実習ですんでしまうのかもしれない。

そういえば、小中学のときに読まされた「人魚姫」は、

王子を助けた事実を伝えられないまま死を選ぶというせつない物語であった。

生のままで食べるというのも、なんとなく、 せつないような、罪深いような印象を持つ。

焼こうが煮ようが殺生することには変わりがなく、

文明的にどうのこうのいうのは、人間のロゴスにすぎぬ。

刺身を食べさせるには、店としては、それなりの構造というか、 システムを持たないといけない。

文明的な面からも、冷凍技術や運搬技術の発達なしにはできないし、

作り手も安全についての配慮や姿勢が問われる難しい料理である。

このあたり、刺身のウンチクについては、

『さしみの科学』の畑江女史にゆずろう。

 

魚の下処理のバリエーションもひろく、

なによりも、切る技術についても、長年の修行が必要である。

道具だって専用の刺身包丁を使うのは無論、 それにだってこだわりがある。

日本橋には、木屋や うぶけや という刃物専門店がある。

いずれも江戸時代からの創業だ。

 

新橋の「和海(なごみ)」は美味しい刺身を食べさせてくれる粋な店である

店に入ってカウンターに座ることができた。

見上げると、天井は、骨組みが突き出た梁が見える。

店員さんたちの元気な声が、なんとも心地よい。

 

江戸時代にも人魚が登場する話がある。

山東京伝の「箱入娘面屋人魚」は、

浦島太郎と乙姫との間にできた人魚を、釣舟の平次が助ける。

舞台は中洲新地、隅田川の三又中州が埋め立てられてできた淡水と 海水が混ざるところで、

水産物も豊富だったのだろう。 富永町という一大歓楽街となり、

私娼の蔓延るほどの賑わいが、 お上の逆鱗にふれ、寛政元年に取り払われる。

取り払われたはずの中州は、 海底に潜り”竜宮城”に移転していたという見立てから物語が始まる。

日本橋にあった魚河岸が明治になって築地に移転した。

築地は全国から魚介類が集まり、 まさに、現代の竜宮城さながらである。

この巨大な迷宮からお目当ての魚を仕入れるのには、目利きがなければいけない。

 

旬な魚に関する知識も並大抵ではいけない。

和海のメニューをみると、今日の日付が見えた。

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きいてみると、日替わりでのメニューの提供だということである。

寛政元年は西暦では1789年でちょうどフランス革命の年。

吉原が人形町から移転になったのは1656年。

移転から100年以上を経ていた。

山東京伝のプロデューサー というべき蔦屋重三郎の茶目っ気で、

吉原移転も踏まえての仕掛けかもしれない。

出だしが、「ゆく川の流れは絶えずして、、、、」

この黄表紙のプロットが非常に愉快なのだが、 平次に助けられた恩返しをと、

魚人という花魁になって身を売るが、 生臭くてとても客がつかない。

この魚人の鱗をなめると、若返るというので、アンチエイジング事業に乗り出す。

ところが、裕福になった平次も欲が出て舐めだし、舐め過ぎて、7歳になってしまった。

そこで浦島太郎(義理の父というわけだ)が登場して、玉手箱でもとの通りに戻る。

一方、舐められ過ぎた人魚もすっかり鱗が剥げ落ちて、 人間となり、幸せに暮らしたという。

アンデルセンが、人魚の物語を書くのが1836年なので、 それから先立つこと40年あまり。

江戸の想像力は本当にすごいと思う。

平次夫婦が住んだ場所が、今の人形町。実は人魚町が由来としゃれる。

和海の女店員さんたちは、みんな きれいな人ばかりで、

さながら、 竜宮城に迷い込んだようだ。

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突き出しは、高野豆腐におぼろ煮をかけたもの。

胃に食欲を与えてくれる様な落ち着いた感じになった。

表に “本日入荷”という文字が見えたので、岩牡蠣を頼んだ。

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岩牡蠣は海のミルク。実に芳醇だ。

品種・産地が違うのか、通常の岩牡蠣よりはやや小ぶりで身がしまっていて、

磯の香りがみずみずしく、軽やかだ。

慌てて、銀盤(日本酒)を頼んだ。

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海のものにはやはり日本酒が合う。

お造りがきた。

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タコからいく。さっと茹でてある。

生ダコのプリプリ感はないが、上品な風味がたまらない。

タコの旬は、面白いことに、関東では冬、関西では夏だ。

春から夏にかけて産卵期なので、夏のタコはやや薄味とのこと。

すっきりした味を強調したのか。

 

カンパチ

ブリやヒラマサは冬が旬だが、カンパチは夏から初秋が旬だ。

 

つづいて キハダマグロ

クロマグロの旬が春で終わったあとは、キハダマグロに選手交代する。

よく動く魚でミオグロビンンを多く含む。あっさりとした赤身が特徴だ。

 

カレイ

ヒラメの方が重宝がられるが、味はカレイの方が濃厚だ。 エンガワと一緒に盛られている。

ヒラメは養殖が多いため、カレイの方が無難。 昆布締めにせずとも良い味だと思う。夏が旬だ。

鯵は、活〆にしてあるのであろう。 身のしまりよりも旨味がひきたつ方を板さんは選んだらしい。

 

そして、 真イワシ

こちらも鯵同様、片口イワシは、身のしまりを楽しむが、

真イワシはねっとりとした脂の旨味を味わう。 これも今が旬だ。

 

どの魚も旬なものである。 浅薄な先入観におもねることなく、

美味なる旬を堂々と盛り付ける、まずもって見事なお造りである。

実は久しぶりに美味しいさかなを食べたので感動が増したのか、 しばし陶然としてしまった。

そこで、やや わがままにもなり、

オススメのお造り(この日は売り切れ990円)と10種盛りのお造りの両方にノミネートされている

〆サバを単品で追加できるかきいてみた。

できます!とのこと

自慢の一品らしく,実にねっとりと下にまといつくサバの脂と、 身の旨味が渾然と口に広がる。

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米焼酎 山セミを追加した。

白身さかなによく合う焼酎だというが、〆サバとの相性も上々だ。

本来酒が弱い自分はすっかり酔ってしまった。

 

夏の宵せっかく竜宮城にきたのだからと、ガーリックチャーハンにつみれ汁も追加。

なぜかチャーハンまでうまい。

つみれ汁がうまいことはいうまでもない。

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フェルナン・ポワン以前の時代には、

フランス料理には、バターが夥しい量で使われていたのだ。

革命を起こしたのがポワンである。 素材との調和を大事にする姿勢は、

弟子のポールボキューズに引き継がれる。

ボキューズたちは、ヌーベル・キュイジーヌという時代をつくりあげる。

この時代を代表する一人のベルナール・ロワゾーは、軽さを追求し、 バターを水に置き換えた。

素材の味を際立たせる方向なのだ。

しかし、この流れは混乱をきたす。

ただ薄味にすればよいという料理がでてきて玉石混交となってしまった。

単なる手抜き料理ではない料理とはどんなものか。

エスコフィエ、ロブションなどキュイジーヌモデルヌが古典復活の要素を取り入れた。

というような変遷をみるにつけ、 刺身という料理は究極の料理ともいえよう。

素材の味そのものであり、かつ、手抜きではない。

 

新橋でも 刺身の美味しい店を発見できたことは、

大変うれしい収穫であった。

今度はオススメのお造りに間に合うように来よう。18:00ごろらしい。

参考:酒の魚 和海

 

 

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これまでのコメント

  1. ヤーマン! より:

    スマイル店長、ブログ読みましたー(*´ェ`*)故郷の沼津わ、漁港で有名なんですねっ☆*私の故郷わ千葉なんですが、小さい頃両親に九十九里の方に連れて行ってもらい、海鮮をよく食べてたなぁーと懐かしくなりました。スマイル店長も、たくさんの種類のお刺身を食べてましたねっ(^^)最近「左を向いてるのがヒラメで、右を向いてるのがカレイ」とゆうことを知りました!エッヘン٩(๑˙╰╯˙๑)۶あれ?逆だったかなー笑?全然関係ない内容ですみません。これからも応援してるので頑張ってください(*´˘`*)♡ヤーマン!!

    • admin より:

      ヤーマンさん♪コメントありがとうございます!
      海鮮っていいですよね。
      カレイとヒラメ、見た目でなくて、
      味で区別できるようになりたいです。
      そうなれたら それこそエッヘン٩(๑˙╰╯˙๑)۶ですね!

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