高崎ビューホテル

□■一夜限りの創作料理の美食会■□

2013年4月25日 来訪

 

コンテンポラルな内装の優雅な会場に

誠実さの伝わってくる料理長の挨拶で 宴は始まった。

 

高崎ビューホテル 開業30周年の記念イベント

総料理長 須田秀明氏による 一夜限りの創作料理の美食会

 

和食、洋食、中華の饗宴だ。

30年を節目として新たなスタートをする気概。

それがまずは感じられた。 その理由はメニューにある。

発酵食品が使われていないのだ。

フランス料理ならチーズや、肉の燻製など 中華だって日本だってお得意の食材だが、

今日はすべてフレッシュな素材である。

さらには、スタッフ一同の感謝の念も伝わってきた。

料理長の計らいか、実況中継なども試み、スタッフ全員がテーブルから見える配慮。

そうなのだ。スタッフだってみられるとやる気がでる。

料理長だけ偉くても宴はうまくない。

さて、素晴らしい美食会に敬意をこめて 芸術性高い絵のような一皿一皿に対し、

図像学(イコノグラフィ)のような解体の試み(どうしてこれはうまいのかを解説すること) をしたいのだが、

完全に料理の力のほうが上で、私の筆の力はそれを描き切ってはいない。

ともかくもすべての作品をひとつひとつ紹介だけはしてみようと思う。

 

■彩の芽吹き

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○和 愛媛産平目昆布〆山菜巻を柚子こしょうジュレで

 味覚が呼びさまされていくような繊細な味に

 柚子こしょうのジュレがまとう。キリッとして食欲も増す。

○洋 フォアグラと旬野菜のゼリー寄せ

 ゼリー寄せとは、西洋風煮こごりである。

 色彩がなんとも綺麗で優雅。絵画を見るようだ。

○中 紹興酒風味の車海老に旬野菜を添えて

 車海老はこういう宴では華やかになる。

 シンプルに後を促すような一品。

 次が食べたくなる。

 

 

■琥珀色の育み

瀬戸内海産鱧と洋野菜の金華ハムスープ仕立て

鱧は和、洋野菜の洋、金華ハムの中 和洋中の合作である。

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 鱧はこの時期は決して旬とはいえない。やはり夏から秋にかけてなのか。

しかしながら、 さっぱりしたものを梅肉なんかであえるから産卵を終えて少し身がしまったものが

好まれるからその季節を旬としているのであろう。

スープに入れて触感を楽しむなら、むしろよい。

たしかな技術が支える骨切りに クオリティの高さが伝わって安心と信頼ができる。

洋野菜はズッキーニ。 洋野菜といってももともとは南米や、エジプトが原産。

西洋料理は大航海がその食材をささえる。

独特な触感が魅力だ。

金華ハムのスープは、浙江省や雲南省などの名物料理。

作り方がシンプルなのになんとも複雑なうまみが口にひろがる。

 

 

■薄紅の煌めき

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○和 黄身醤油で青森県産本マグロのあぶり焼き

大間のマグロである。近海ものの良さはなによりも“ほどよさ”にある。

脂がのりすぎず、赤身の味がしっかりとバランスがよい。

あぶり焼きという調理法も“ほどよさ”を引き立てるものだ。

食感もどっしりとして、とてもよい。

 

○洋 香草風味のタスマニア産サーモンと帆立のタルタル仕立て

香草風味の鮭は西洋では古来より食べられている。

もともとは、聖職者たちが謝肉祭の前の魚をたべてよい日に食した。

トラウト(鱒)などを養殖していたという。

それだけに、鮭鱒に関して西欧は確かな味覚をもっている。

一般的には大西洋の鮭鱒のほうが、味が良いとされる。

海と空が違うということであろうが、タスマニア産の鮭鱒は世界中で有名になった。

「美味しんぼ」でも紹介されたので、ご存じの方も多いかもしれぬ。

世界一人気のあるレストランがタスマニアにあり、日本人シェフが腕をふるうという。

そこの名物料理がオーシャン・トラウトのコンフィ。

今日のこの一品はそれを思い出させた。

帆立が完全に脇役になるほどこの鮭は存在感がある。

とてもうまい。

 

○中 チャイニーズ風真鯛のお刺身

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和、洋と横綱級の魚を出してきたが、

それに肩をならべるどころか印象にくっきりと残ったのがこの一品であった。

フランス料理は、エスコフィエやアランデュカスなど料理界の巨匠のおかげでバターまみれの料理から進化を遂げた。

その進化には、ジャポネスク、シノワズリーなど東洋の文化も影響していることだろう。

中華料理はそこから逆輸入される形か。まさにヌーベルシノワーズ。 油を使う料理からの脱皮である。

それでも松の実がかけてあり、しっかりと中華なのである。

個人的に、高崎ビューの中華料理は注目だ。

素晴らしいセンスが光る。

こんな料理人を招聘できるのも料理長の腕なのだと思う。

 

 

■山吹の温もり

○和 大根釜のすっぽん煮の彩飾り

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スッポンのスープでさっと煮た大根で器を作り、その中にキノコ類や野菜などを入れて、彩りよい炊き合わせである。

彩の食材の触感と淡い出汁中にたくましさがちょっぴりと感じられるスッポンの風味。とても温もりがやさしい一品だ。

○洋 北海道ウニのふらっとシブレットソース

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コンソメがベースなのであろう西洋風茶碗蒸しに雲丹をふんだんにのせて、シブレット(西洋浅葱)をかけたもの。

濃厚なうまみがねっとりと纏わり、 ふわっと柔らかな香とともに口に広がる。

文句なしにうまいものである。 シブレットが次の一口を新鮮にする。

 

○中 上海風吉切鮫のふかひれ姿煮

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吉切鮫。気仙沼でとれる鮫のほとんどがこの種である。

フカヒレ自体に味はあまりなく、広東ではこってりとしたとろみのあるスープをかける。

オイスターソースなどをいれて煮込むのが上海風である。トロっとやわらかく食べやすい。

滋養にもよさそうな心持だ。

 

 

■黄金に映える悦び

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○和 赤ピーマンソースの鴨地蒸し

地蒸しというのは浅学でわからないが、玉地蒸しが具のない茶碗蒸しを指すことから ただ蒸しあげたものを指すのであろう。

かなり肉質のよい味わいのある鴨。

その素材を生かすために行う和ならではの引き算というところだろうか。

引くと何かが足されやすくバランスがよくなる。

赤ピーマンソースも大変に美味。

 

○洋 トリュフソースの上州フィレ肉グリル

上州牛は初めて食べたが、素晴らしいと思った。

くさみが少なく食べやすい。それでも肉料理を食べているというどっしり感がある。

火加減も絶妙だったせいもあるのかもしれぬ。地元の食材を使う心配りも粋だ。

 

○中 長崎県産鮑の香味辛し炒め

この炒め料理は、日本料理かと思うほどだ。

鮑のうま味が存分に味わえる。

鮑から湧き出す海の香が一皿全体にいきわたり 夕日の映える海が情景として浮かんだ。

 

 

 

■木漏れ日の楓 ずわい蟹の炊き込みご飯に鶯餡を添えて

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西洋のリゾットのような盛り付け、固めに仕上げたチャーハンのような触感とカニの風味、和の鶯餡。

合作なのだが基本は和食である。

芽吹いた新芽が育(はぐく)まれ、煌(きらめ)きながら存在を醸し出す。

やがて山吹のような温もりと相まって、黄金に映えるように昇華していく。

 

この美食会に 食材を人の成長や修行にたとえ、達成していくような巻物が 仕込まれているのだとすれば、

”木漏れ日の楓”は30年達成の記念を祝う今日の宴のなかで、 ホテルに訪れてくれた人への感謝を込めた絵になるのであろうか。

とてもくつろいだ雰囲気に会場内がなったのだ。

 

 

 

■深緑からの虹

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ハーブティーに合わせ、料理と巻物の集大成の余韻を興ずる。 カラフルなスイーツである。

○和 宇治抹茶の京生八つ橋風

抹茶の風味と八つ橋のような食感が落ち着く。

 

○洋 ラズベリーのフワフワレミントン

レミントンとは一口サイズのケーキである。

柔らかく仕上げてあり

ラズベリーの酸味でさっぱりとする。

 

○中 マンゴープリン 白きくらげ入り

濃厚なマンゴーなのだが、白きくらげは胃の薬にもなるらしい。

官能的な食感に 体がゆったりとした。

 

 

和、洋、中が バランスよく奏でられた饗宴。

その中で各々がいぶし銀のように個性を発揮する。

出てくる品々がどれをとっても、本当に素晴らしかった。

それをまとめあげる指揮者のなみなみならぬマネージメントが感じられる。

 

今度はゆっくり泊まって味わうべきであろう。

また、いきたい場所が高崎にできたことは、 これからの人生の大きな収穫である。

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