お多幸

-vol.9- □■樽とサラリーマンの誇り■□

ーー2013年2月5日来訪ーー

vol9_mise
円安に転じて、株価もリーマンショック以前の水準に戻ってきた。
アベノミクスを讃える人もいるが、反動を恐いとも思う。
長い間デフレの状態が続くことは経済の歴史でもまれなことなようだ。
なにかをきっかけに好景気に転ずることを人々がのぞんでいたことと思う。

政策の結果として好景気が続いたのなら、振り返ってきっかけをつくったことを
はじめて評価することになるだろう。

新橋の街も活気を取り戻しつつある。
飲む人が増えてきたように感じる。

きっかけをつくるのは、自分自身であると説くビジネス書も多いが、
なるほどその通りであろう。
そもそも景気も気の持ちようなのである。
しかしながら、言うは易しである。

なかなかきっかけづくりは難しい。
性に合わないという人も多かろうと思う。
何事も口火を切るのは人の性格による。
事業主となるのが難しいであれば、
サラリーマンでいる人生もまた楽しいではないかと思う。

自分は、経済については、疎いのでわからないことが多い。
そうはいいつつも、
こんなスナックの店主でも街の空気が緊迫を帯びているのは
感じることができる。

ビジネスチックなことを書くことは元来お角違いなのだが、
今夜は おでんの名店 ”お多幸”で飲んだゆえ
そんな高尚な気分になれたのかもしれぬ。

おでん

老若男女に受け入れられる料理だ。

田楽が語源であるが、原型はとどめていない。
江戸時代の外食文化が産んだ傑作といったほうがこの料理にふさわしい。

お多幸といえば、関東煮の名店である。

おでんは歴史が古く地方によって多彩だが、
主には2系統あり、しょうゆをたっぷり使う関東煮と
薄口醤油を上品につかう関西炊きがある。

御茶ノ水の”こなから”は、関西炊きの名店である。

こなからは、おでん種まで自家製で手が込んでいる。

お多幸は、とてもシンプルで、やや大ぶりな種が特色だ。

店の一押しは、豆腐。

豆腐は、人形町の双葉からの仕入れというこだわり。

おでん種は、日本橋の神茂からの仕入れである。

濃口醤油の色が印象深いお多幸だが、
味わいはとてもやさしい。

おでんには、もちろん日本酒。
菊正宗をもらった。
vol9_osake


樽の香りがする。

馥郁たるその香に 日本酒の味が引き立つ。

いかの塩辛を ”あて”に味わう。

とてもよい。

かつて、高度成長期の日本を書いた”Japan as Number1”
という本がよく売れた。

日本人の学習能力の高さを評価している本であった。

日本は相伝の技術力、ひたむきさ、品質の高さが魅力である。
それは、組織によって磨かれる。

修行や丁稚奉公などの制度を通じ、
商売のメソッドや、ものづくりの技が世代を超えて受け継がれてきた。

今は世代格差が広がりつつあり、若い人に中年以上の方がもっている
さまざまな技術が伝わりにくくなっている。

会社という組織も日本は特徴的だ。
年功序列や、終身雇用といった制度について
日本人の風土にあっていることを知ってつくったとしたら
驚嘆の先見と分析である。

しかしここ30年の間に、崩壊しつつある。

上司がローンや教育費にあえぎ、
OLがおしゃれなランチを楽しむかたわらで
立ち食いソバをすする姿。
夜席でも割勘を強いられる上司の姿をみて、
どうして憧れをいだくものか。

自分としては、悲哀があっていいな
とも思う。

しかし、世代格差ゆえの技術のミッシングリンクを是正するなら
尊敬できる上司とお多幸で一杯傾けるのも一興であろう。

ビジネス書籍は、実業家ばかりが書くものでないと思う。
個人技だけでなく
会社組織を盛り立てようという風土が消えつつあるのはさびしい。

取引先や上司ともっと飲む機会を増やしたほうが
自分のためだし、日本のためでもあると思うがいかがだろうか。。。

社歌をうたい、背広に会社の社章を誇らしげにつける
サラリーマンが減ってきてしまった。

会社組織の文句ばかりがきこえてくる。
会社にも正義があり、社員にも正義がある。

和解はなくとも折り合いをつけようと話し合う道はきっとある。

会社が自己実現の場で、会社のカラーに染まり、
会社を成長させ、自分も成長することがサラリーマンの気概である。
その世界的にもまれな組織があればこそ、
高度成長期の日本の技術を支え、他国との競争に勝てたのではなかろうか。

会社は、菊正宗をひきたてる樽のような存在であってほしい。

〆サバをつまに、二丁盛りをいく。
vol9_simesaba


野菜の甘み、しょうゆの味わい、さまざまな具のうまみが混然一体となって
仕上がる絶大なるハーモニー。
vol9_oden1


玉子、じゃがいも、巾着を追加した。


vol9_oden2

さすがは老舗、なんとも落ち着く。

神茂の技術が光る種を、おでんという作品にまとめあげる店の力は、
まさに、お多幸ブランドである。

一過性の景気の上げ下げに一喜一憂することは不要であるように思う。

こういった店がありつづけることで、
会社というブランドの香りをまとったサラリーマンが、
堂々と元気に仕事ができるなら、なによりではないだろうか。

今夜もまた、
新橋という樽も
サラリーマンの疲れを誇りに変えようと
年輪を重ねていくことだろう。
vol9_gaikan

参考: お多幸 新橋店

LINEで送る


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>