馬鹿ぼんど 第五話
“好き ”って気持ちは、どんな感情のレベルをして、
そう決められるんだろう? 謎だ。
クラスメートの美貴ちゃんが好きなのっ! とかなんとか、
小1のダレルが生意気なことを訴えてきて、 小突いてやったことがあったなあ。
わたし、中学生の時、体育の先生に
「好きです」って認(したた)めたラブレターを書いた。
出す前に友達に読まれちゃって、顔から火が出て、
「嘘! 冗談だってば!」って、慌てて破いた。悔しくなって、
後で泣いた。恋も勝手に破れた。
その手紙を読みやがった旧友はまだ独身なんだけど、
どうしても不倫相手の彼を断ちきれないでいる。
「だって、好きなんだもん!」って馬鹿みたいに嗚咽していた。
その子に、「好きってどういう気持ちなんだろうね?」って尋ねたら、
口をつぐんで白熱灯をしょぼしょぼ見つめながら、
“同じような温かい感情を、
対象となる相手にも自分に対して持ってほしいと願う気持ち ”だと、
長々絞り出す。
見返りを求めるって相手なら、
フィリックスに対してもそうだったよ、
って、わたしはなんともピンとこなかった。
「けれど、好きじゃないのに、結婚や同居……、それから出産に子育て、 そんなことが次々に出来るものでしょうか?」
「できるかどうかじゃなかった。どんどん負い被さってくるんだもの。しようがないからこなしていくって感じ」
わたしは、左右の掌と甲を何度か交互に添え直して説明を加える。
「フィリックスの面倒、次はダレルの子育て、今度はエマの出産」
みんな義務でしかないよ。
中上さんは、
「それはお子さんたちにとって幸福なことではないわ」
と、きっぱりとわたしを責めた。
ダレルを保育園に預けられるようになって、
漸く社会復帰に意欲満々の矢先、長女のエマが出来てしまった。
わたし、ショックだった。
「また一から同じことをやらなくちゃいけないのか……」
って、産婦人科の待ち合いで零したら、フィリックスは、
「なんで嬉しくないのデスカ?!」
と、怒ったような? 困ったような? いやいや不思議そうな表情。
天使が自分の頭の上で微笑んでいるのに、
なぜか「御愁傷様です」と肩を叩かれたような面でこっちを見る。
わたしに “産まない ”って選択肢はなかった。
フィリックスの信仰が問題ではない。
ただ自分に課された仕事を放棄するのは、嫌だったから。
意地っていうか、プライドっていうか、ね。
取り上げられた娘には、「すべて」とゆう意味で、
「エマ」と、わたしが名付ける。
込めた気持ちに偽りはない。
だから全力で産んだし、全力で育てた。
女の子だし、褐色の肌に心痛む時が来るかもしれない。
でもね、自分で自分を隠すために異端の小部屋を掘っ建てて、
そこにイジイジと引き籠ったりして欲しくはなかった。
命を授かったことに感謝して、偏見の眼差しに負けない人間に育てたい、
そうゆう気概はとにかく全力だった。
当然ダレルにも同様の気持ちで向き合ってきたけれど、エマに対しては殊更だった。
「私は話せば話すほど、あなたのことが分からないのです」
中上さんはこめかみのあたりを押さえて、小さく首を振った。
「咲恵さんはここに熱心に運ばれて、わたしにお話をされるのに、ダレル君を取り戻したいって感じが伝わってこないんです。もしそうなら、なぜここにいらっしゃるのだろう? 目的はなんだろう? って」
わたしは、当然そうだろう、と、愛想よく頷いてみせる。
それがまた中上さんに無用な反感を買うのも気付いていたけれど。
子供を手元に取り戻せない焦燥が沸騰して、逆上したり、
悲嘆や悔恨に暮れたりするのは負けを意味するのだ。
わたしは、たとえ、わたしやフィリックスがいなくとも、
強く生きる力を二人に教えてきたつもりだ。
母親としての仕事を全うした、ってゆうプライドがある。
プロの母親として、運命の流砂に呑まれて、
じたばたと藻掻くだけはしたくないのだ。
「ここに来るのも母親としての仕事だもの」
わたしは凛として答えた。
そして、
「虐待の事実はありません」
と、加えた
(つづく)
by ケイ_大人
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けいさん☆*長編お疲れさまです(*´ω`*)ずっと読んでますよーっ♡今回のお話わさらに大人向けとゆうか、内容も多種多様で難しいですねっ(>_<)何回もスクロールして、じっくり読み込んでます(笑)!そーゆー点でわ、まだまだ大人になれてないなぁと感じてますヽ(;▽;)ノ(笑)!恋愛も結婚も難しいですねっ。その言葉を耳にしただけで私わリア充だなー。と思ってしまうんですが、それが全ての人の幸せって訳でもないですもんねー。感想が暗くてすみません(っω・`。)笑!今週も更新頑張ってくださいねっ♬☆*応援してます!ヤーマン(^^)